不確定申告

tanaka0903

しづのをだまき

ええっと。 新古今恋五辺りを読んでいると、

忍びて語らひける女の親、聞きていさめ侍りければ 参議篁(小野篁)

数ならばかからましやは世の中にいとかなしきはしづのをだまき

藤原惟成

人ならば思ふ心をいひてましよしやさこそはしづのをだまき

などと出てくるので、ここでは「しづのをだまき」は単に「賤の男(しづのを)」として使われているように見える。 身分が低いので相手の親に諫められたとか、 告白できなかったとか。

伊勢物語32段

むかし、物いひける女に、年ごろありて、

いにしへのしづのをだまき繰りかへし昔を今になすよしもがな

といへりけれど、何とも思はずやありけん。

ここでは「倭文の苧環」という意味で、「いにしへのしづのをだまき」までがひとつながりの意味になっていて、 しづは唐衣に使われる漢綾に対する昔ながらの麻などで織られた大和綾というもの。 なので「いにしへのしづ」となる。 古くは濁らず「しつ」「しつおり」「しつり」などと言ったらしい。 「をだまき」は「緒手巻」か「麻手巻」か。 紡いだ麻の糸を巻いたもので、糸から綾を編むときに使う。 機織りの動作から「くりかへし」となった。 ましかし、「いにしへのしづのを」というのがつまり「昔おまえとつきあってたこの身分の低い男がよぉ」というへりくだった意味も含むのだろう。 となるとかなり滑稽な雰囲気の歌となる。

古今集雑題しらずよみひとしらずに

いにしへのしづのをだまきいやしきもよきもさかりはありしものなり

という歌があり、おそらくはこれが「しづのをだまき」いちばん古い形で、 やはりこれも「賤の男」にかけた意味に使われている。 「いやしき」も「よき」もという辺りがわかりやすい。

千載集、源師時

恋をのみしつのをたまきくるしきはあはで年ふる思ひなりけり

ここでは「恋をのみしつ」と「賤の男」と二つの意味に使われている。

新古今、式子内親王

それながら昔にもあらぬ秋風にいとどながめをしつのをだまき

ここでは「ながめをしつ」と「しづのをだまき」に「くりかへし」を連想させて、 昔ながらのようでそうでもない秋風にいつまでも長々とながめをしてしまった、の意味か。

もっとあるがだいたいこのくらいで全パターン網羅か。