小沢蘆庵の歌
江戸時代の知らない人。でもなかなか良い。 宣長とほぼ同世代の人で交流もあったらしい。
よしさらばこよひは花の蔭に寝て嵐の桜散るをだに見む
これは良い。
けさよりは吉野の山の春霞たが心にもかかりそむらむ
あともなき朱雀大路の古き世を思ひ出でつつ雪やわくらむ
何ごとのはらだたしかる折にしも聞けばゑまるるうぐひすの声
春雨の音きくたびに窓あけて軒の桜の木の芽をぞ見る
良い。 江戸時代にここまで高いレベルに達し、また公家だけでなく武士や庶民にまで広く普及していた和歌がなぜあれほどまでに無残に破壊されねばならなかったのか。 実に悔しい。
なるほど、「ただごとの歌」か。すばらしいなこれは。
行く春をうぐひすの音は絶えぬるにはかなくもなほ鳴くひばりかな
鳴くひばりさのみな鳴きそ暮れてゆく春は惜しめどかひなきものを
かひなしと言へども我も行く春を惜しとぞ思ふ泣きぬばかりに
泣くばかり惜しとはなにか思ふべきまた来む春を頼む身ならば
頼まれぬ老いの身をもて限りなき春を惜しむもかつははかなし
なかなか良いなこの連作。
今は世に心とめじと思ひしを花こそ老いのほだしなりけれ
良い。