油谷倭文子の歌
雪深き谷の古巣のうぐひすはまだ春としも知らずやあるらむ
春風は吹きそめにけりつくばねのしづくの田居や氷とくらむ
花の色に心も染めぬうなゐ子の昔よりこの春は待たれし
雪深きかきほの梅もうぐひすの声聞くときぞにほひまされる
いつしかも行きて見てしがみよし野のよしのの山の花の盛りを
昔より神も諫めぬわざならし花に浮かるる春の心は
玉と思ふ露はくだけしはちすばにまたこそけさはあざむかれけれ
月見ればおふけなくしもなりぬかな知らぬ千里も思ひやられて
山里のもみぢの色を見ぬ人は秋に心を染めずやあるらむ
よひよひに涙はゆるすをりもあるをやるかたなきぞ心なりける
来じと言はば来む夜もありと待たましを来むと頼めて来しやいつなる
思ふなる心に数はなきものをなほこそ待ためみとせ過ぐとも
一夜経(ふ)と言へばたやすしきのふけふおぼつかなさの数ぞやは知る
末いかにちりやかさねむ手枕のにひしきほどにふた夜来ぬ君