不確定申告

tanaka0903

小林秀雄全集

図書館に、小林秀雄全集という本があったのだが、どうしてこれが「全集」なのかさっぱりわからない。 それはともかくとして「鎌倉」などの小文を読むに、 格別大したわけでもなく、いやいやしかたなく書いたオーラに満ちた普通の文章。 なんかいやいや書いた記事、いやいややった講演などがけっこう多い。 酔うと人に絡んだという、そんな言動がそのまま原稿用紙に残ったような文章も多い。 教科書に載れば本の売り上げにも影響するからと、不本意ながらも、掲載の依頼のはがきに全部「諾」と答えて返信したとか。 文芸だけで食っていくというのは、小林秀雄でもかくあるかと。

東京オリンピックより前の日本には、小林秀雄的な人は、たくさんいたのだろう。 今はかなり減った。 今の60代の人間が、定年でいなくなれば、まったくいなくなるに違いない。 そういう人間になりたいともまるで思わない。 昭和という時代に対するノスタルジーも、今はかなりなくなった。要するに、古き良き時代というには値しない、 でたらめな時代だったということだ。

戦前の日本には小野田少尉みたいな人が普通に、ざらに居たのだろう。 また日本の科学技術力も、国民のモラルも決して低くなかった。 逆にイギリス人やアメリカ人や中国人のていたらくは、目に余るものがあっただろう。 多少、勘違いしても、おかしくない状況だったのだと思う。 あくまで泥水をすする道を選ぶには、当時の日本人は志が高すぎたのではないか。