不確定申告

tanaka0903

主有る詞(ぬしあることば)

特定の個人が創始した秀句で、歌に詠み込むのを禁じられた句。

幽斎『聞書全集』

主有る詞とは

かすみかねたる(藤原家隆)

今日見れば 雲も桜に うづもれて かすみかねたる みよしのの山

うつるもくもる(源具親

なにはがた かすまぬ浪も かすむなり うつるもくもる おぼろ月夜に

はなのやどかせ(藤原家隆)

思ふどち そことも知らず 行きくれぬ 花の宿貸せ 野辺のうぐひす

月にあまぎる(二条院讃岐)

山高み 峰のあらしに 散る花の 月にあまぎる あけがたの空

あらしぞかすむ(後鳥羽院宮内卿

逢坂や こずゑの花を 吹くからに あらしぞかすむ 関の杉むら

かすみにおつる(寂蓮)

暮れて行く 春のみなとは 知らねども かすみに落つる 宇治の芝舟

むなしき枝に(九条良経

よしの山 花のふるさと あと絶えて むなしき枝に 春風ぞ吹く

はなのつゆそふ(藤原俊成

駒留めて なほ水かはむ 山吹の 花のつゆ添ふ 井出の玉川

はなの雪ちる(藤原俊成

またや見む 交野の御野の 桜がり 花の雪散る 春のあけぼの

みだれてなびく(藤原元真

あさみどり 乱れてなびく 青柳の 色にぞ春の 風も見えける

そらさへにほふ(藤原師通・後二条関白内大臣

花盛り 春の山辺を 見渡せば 空さへにほふ 心ちこそすれ

なみにはなるる(藤原家隆)

かすみたつ 末の松山 ほのぼのと 浪に離るる 横雲の空

あやめぞかをる(九条良経

うちしめり あやめぞかをる ほととぎす 夏やさつきの 雨の夕暮れ

すずしくくもる(西行

よられつる のもせの草の かげろひて 涼しくくもる 夕立の空

雨のゆふぐれ(九条良経

うちしめり あやめぞかをる ほととぎす 夏やさつきの 雨の夕暮れ

きのふはうすき(藤原定家

小倉山 しぐるる頃の 朝なあさな きのふはうすき 四方のもみぢば

ぬるともをらむ(藤原家隆)

つゆしぐれ もる山かげの したもみぢ 濡るとも折らむ 秋のかたみに

ぬれてやひとり(藤原家隆)

したもみぢ かつ散る山の ゆふしぐれ 濡れてやひとり 鹿の鳴くらむ

かれなでしかの(六条知家)

あさぢ山 色変はり行く 秋風に 枯れなで鹿の 妻をこふらむ

をばななみよる(源俊頼

うづら鳴く まのの入り江の 浜風に 尾花なみよる 秋の夕暮れ

露のそこなる(式子内親王

あともなき 庭の浅茅に むすぼほれ 露の底なる 松虫の声

月やをじまの(藤原家隆

秋の夜の 月やをじまの 天の原 明け方近き 沖の釣り舟

色なるなみに(源俊頼

明日も来む 野路の玉川 萩越えて 色なる浪に 月宿りけり

霧たちのぼる(寂蓮)

むらさめの 露もまだひぬ まきの葉に 霧立ちのぼる 秋の夕暮れ

わたればにごる(二条院讃岐)

散りかかる もみぢの色は 深けれど 渡ればにごる 山河の水

月にうつろふ(藤原家隆

さえわたる 光を霜に まがへてや 月にうつろふ 白菊の花

わたらぬみづも(後鳥羽院宮内卿

竜田山 嵐や峰に 弱るらむ 渡らぬ水も 錦絶えたり

こほりていづる

あらしにくもる

やよしぐれ

雪のゆふぐれ

月のかつらに

木がらしのかぜ

くもゐるみねの

われてもすゑに

みをこがらしの

袖さへなみの

ぬるとも袖の

われのみしりて

むすばぬ水に

ただあらましの

われのみたけぬ

きのふのくもの

すゑのしらくも

月もたびねの

なみにあらすな

右何れも主有る詞なれば、詠ずべからずと云々。