不確定申告

tanaka0903

宣長の初めての歌

新玉の 春来にけりな 今朝よりも かすみぞそむる ひさかたの空

宣長が19歳の時に、最初に詠んだ歌。 ちょっと検索してみると、いろんなことがわかる。

「春来にけりな」という歌は無い。 普通は「春は来にけり」と言うところだがなぜ「春来にけりな」?

花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに

やはりこれの影響か。

「来にけりな」であれば後鳥羽院

昨日まで かかる露やは 袖に置く 秋来にけりな あかつきの風

或いは寂連の

吹く風も 松の響きも 波の音も 秋来にけりな 住吉の浜

がある。 いずれも「秋来にけりな」の形。 いずれにしてもあまり事例は多くない。 「あらたまの」は普通は「年」にかかるが「春」も無くはない。 「今朝よりも」これもあまり用例はない。初出は凡河内躬恒

七夕の 飽かで別れし 今朝よりも 夜さへ飽かぬ 我はまされり

普通は「春立ちぬ」などというところだが、「春来にけり」「春は来にけり」も少なくはない。

「かすみぞそむる」これも用例がない。まあ、普通ならば「かすみそめたる」などとやるところだ。

「ひさかたの空」これもなくはないが用例は少ない。 初出は西行

うき世とも 思ひとほさじ 押し返し 月の澄みける ひさかたの空

であるらしい。

これらは主に新古今時代の歌だが、新古今やその他の勅撰集に出ているわけでもない。 宣長はどうやって和歌を勉強したのであろうか。 もう少しほかの宣長の初期の歌に当たってみる必要がありそうだ。

今朝よりや 春は来ぬらむ あらたまの 年たちかへり かすむ空かな

似てる歌を探してみた。 これは二条為世。まあ、普通の歌人の歌だわな。 そうだなあ。私なら、もとを活かして

あらたまの 春は来にけり あしたより かすみそむらむ ひさかたの空

或いは

あらたまの 年のたちぬる あしたより

などと直すだろうか。 いずれにせよ私はこんな歌は詠まないけど。