不確定申告

tanaka0903

蜀山人2

蜀山家集 全狂歌のみをだいたい見繕ったもののようだ。 これは便利。

弥生十二日舟にて隅田川にまかりけるに花いまだ咲かず

隅田川 さくらもまだき 咲かなくに 浮きたる心 花とこそ見れ

これはまともな歌。

春の日、芝のほとりにて

春の日も ややたけしばの 浜づたひ 磯山ざくら 見つつ飽かぬかも

これも良い歌。ていうか、一番良い出来ではないか。 竹芝海岸の「たけ」を春が長けるの「たけ」にかけていて、 「浜づたひ磯山ざくら」がうまく効いていて、 最後は万葉調にしめている。 やればできるじゃん、大田南畝君。まあ秋成の友人だけはある。 こういう歌を江戸時代に蜀山人あたりが詠んでいるというのが、やはり近世の和歌もあなどれんよなあ。

磯山ざくらとは磯に咲く山桜のことだろうか。 続後拾遺集

心なき あまの苫屋も にほふまで いそやまざくら 浦風ぞ吹く

これはまあまあ良い歌。 作者はネットで検索しただけだとわからん。国歌大観で調べんとな。

竹芝は当時どんな浜辺であったか。 砂浜だったか。砂利か泥か、或いは磯か。今となってはまったく想像がつかない。

浜庇山といへる茶屋にて

しばしとて やすらふ芝の浜庇 ひさしくみれど 飽かぬ海づら

年の暮れに

衣食住 餅酒油 炭たたき なに不足なき 年の暮れかな

杏園詩集はところどころ面白いがうまく意味の通らない(解釈に自信のない)ところが多すぎる。 たとえば隅田川を詠んだ詩で「南連両総北三叉」というのがある。 両総は下総国上総国だが、北の三叉とは何か。 常陸、下野、上野であろうが、確証が持てない。

狂歌は「蜀山百首」と「千とせの門」が良い。 あとはあまりできがよいとは思えない。 「狂歌百人一首」は大嫌いだ。ただのパロディでつまらん、が、世間では一番知られているようだ。 「めでた夷歌百首」も似たようなもの。 「巴人集」「巴人集拾遺」は詠草にあたるか。数は多いが良いものは少ない。