小説の読者
これは他の芥川の文章よりもずっとわかりやすいと思う。 今の小説の読者は、
- まず小説の筋を読んでゐる
- 次に、描かかれた生活に憧憬を持つてゐる
- 次に、読者自身の生活に近いものばかり求めてゐる
ストーリーがおもしろいから読む。 ミステリーやラノベなどであろう。
次に、自分の日常から遠く離れたものを読む。 ファンタジーのことだろう。
次に、自分の日常生活に近いものを読む。 普通の現代小説、通俗小説のことだろう。
しかし芥川は自分が小説を読むには、それ以外の要素があるといい、
では何が僕の評価を決定するかと云へば感銘の深さとでも云ふほかはない。
という。 で、
この何かに動かされる読者の一群が、つまり読書階級と呼ばれるのである。或は文芸的知識階級と呼ばれるのである。かう云ふ階級は存外狭い。おそらくは、西洋よりも一層狭いだらう。僕は今、かう云ふ事実の善悪を論じてゐるのではない。唯事実として話すだけである。
としめている。
普通、芥川の文芸論と言えば、谷崎隆一郎の間で交わされた 文芸的な、余りに文芸的な とか 続文芸的な、余りに文芸的な などをさすのではないか。 しかしこれを読むと芥川という人はなにか難しいことを言う人だ、 さすがに芥川は難しい、 という印象になってしまわないか。 芥川の言っていることはもっと単純明快だと思う。
小説作法十則 これもけっこうこむつかしいことを言っている。