不確定申告

tanaka0903

宗安寺法螺添削詠草

宣長が和歌を詠み始めた頃に習った師が法螺で、その添削した歌が『宗安寺法螺添削詠草』 として残っている。 宣長が最初期に詠んだ和歌として非常に興味深い。 寛延二年というから宣長二十歳。

たづね入る山のかひあれほととぎすただひと声はほのかなりとも

法螺も褒めているが、なかなか良い歌。

ほととぎす夜半の一声なかなかに聞かずはやすく寝なましものを

珍重、と評されている。まあまあ。

宇治川の瀬々の網代木み隠れて白波高し五月雨の頃

なんか、こんな古歌があってもおかしくない。 ある意味陳腐でもある。

須磨の海人の焚く藻の煙たたねども袖しほたるる五月雨の頃

うーん。 これはどうかな。 作りすぎって感じ。

待ち出でて見るかとすれば夏の夜は惜しむまもなくかすむ月かげ

よくできてるが陳腐だよなあ。

うたたねをねざめてみれば涼しくも枕にやどる夏の夜の月

うたたねをねざめて、というあたりがくどいし、陳腐だわな。 まあ、歌会なんかの社交には適したレベル。

鵜飼ひ船さすやかがりの大井川をぐらの山も名のみなるらむ

かがり火をたいているので「をぐら」(小暗い)の名前に似つかわしくないほど明るい、と言いたいのだろう。

松高き梢に秋や通ふらむ鳴くひぐらしの声ぞ涼しき

まあまあ。

夕立ちの晴れゆく雲の絶え間より入り日に磨く露の玉ざさ

まあまあ。

春雨はふりしきれども鴬の啼く音のいろはうつろひもせず

これはなかなか良い。

春の夜の闇にぞまどふ梅の花そことも知らぬ深き匂ひに

これもまあ良い。

影うつる水のかがみを竜田川やなぎの髪をけずる春風

なかなか良い。ちょっときどってるけど。

咲きそむる花を見捨てて行く雁はなほ古里の春や恋しき

うーん。まあまあかな。

もろともに花もさびしと思ふらむ我よりほかに見る人もなし

こういう歌は多いよね。最初からこんな歌詠んでたんだなという。 香川景樹の

世の中はかくぞかなしき山ざくら散りしかげには寄る人もなし

に似てなくもない。まあ含むところは全然違うのだが。

散りまがふ花に心のあくがれて分け入る山のほども覚えず

これは良い。

散るとても桜はよしや吉野川今を盛りの山吹の花

桜が散ってしまったが、まあいいや、代わりに山吹の花を見ようという話。うーん。

法螺という人、だいたい、珍重、とかいって褒めている。 実際そんな悪くはない。