不確定申告

tanaka0903

閃輝暗点

芥川龍之介歯車病中雑記

閃輝暗点。 ここに書かれてあるように、 脳の中で何らかの痙攣が起きると血流が止まって視覚がおかしくなる。 歯車のような閃光がみえる。 痙攣がおさまると今度は血流が増大して血管が膨張し偏頭痛となる。

又古き活動写真を見る如く、黄色き光の断片目の前に現れ、「おや」と思ひしことも度たびあり。

のみならず僕の視野のうちに妙なものを見つけ出した。妙なものを?――と云ふのは絶えずまはつてゐる半透明の歯車だつた。僕はかう云ふ経験を前にも何度か持ち合せてゐた。歯車は次第に数を殖ふやし、半ば僕の視野を塞ふさいでしまふ、が、それも長いことではない、暫らくの後には消え失うせる代りに今度は頭痛を感じはじめる、――それはいつも同じことだつた。眼科の医者はこの錯覚(?)の為に度々僕に節煙を命じた。しかしかう云ふ歯車は僕の煙草に親まない二十前にも見えないことはなかつた。僕は又はじまつたなと思ひ、左の目の視力をためす為に片手に右の目を塞いで見た。左の目は果して何ともなかつた。しかし右の目の瞼の裏には歯車が幾つもまはつてゐた。僕は右側のビルデイングの次第に消えてしまふのを見ながら、せつせと往来を歩いて行つた。ホテルの玄関へはひつた時には歯車ももう消え失せてゐた。が、頭痛はまだ残つてゐた。

うーん。これのみを見れば、明らかに精神病とか癲癇ではなく、偏頭痛の一種らしいな。

鵠沼雑記

「歯車」の迷宮: 注釈と考察 詳しい。