不確定申告

tanaka0903

彷彿

「彷彿」漢和辞典を見ても、「髣」も「髴」も特に意味はないように思われる。 「方」と「弗」という音だけに意味があるのだろう。 中国語辞典で引くと、 「あたかも・・のようだ」、という意味と、 主に「相彷彿」の形で「似ている」という意味があるそうだ。

頼山陽の詩に「水天髣髴」とあるが、海と空の境がはっきりとしない(似ている)、という意味だろう。

呉融「端居」

殘蟬彷彿鳴

残った蝉がかすかに鳴いている、という意味だろう。 呉融は晩唐の詩人。

薛濤「江月樓」

秋風彷彿吳江冷

これも秋風がかすかに吹いているという意味であろう。 薛濤は唐代の女流詩人。

丁澤「上元日夢王母獻白玉環」

夢中朝上日,闕下拜天顏。彷彿瞻王母,分明獻玉環。

丁澤は誰かよくわからんがこれも唐詩。 夢の中で朝日が昇り、宮門の下で天顔を拝する。 おぼろげに王母を見、明らかに玉環を献じる。

魯迅「秋夜」)

他彷彿要離開人間而去

それ(夜空)はあたかもこの世から離れ去っていこうとするかに見える。 現代中国語的用例。

おそらく昔はかすかにとかおぼろげという意味だっただろう。 それが似ているという意味になり、まるで何とかのようだ、という意味になった。

もし主人のような人間が教師として存在しなくなった暁には彼等生徒はこの問題を研究するために図書館もしくは博物館へ馳けつけて、吾人がミイラによって埃及人を髣髴すると同程度の労力を費やさねばならぬ。

漱石吾輩は猫である

このように何かを想起させる、類推する、という用法はどこから来たか。謎だ。