不確定申告

tanaka0903

桂園一枝 恋・雑

いかでかく 逢ふは夢なる ここちして つらき別れの うつつなるらむ

限りあれば ふじの煙も 立たぬ世に いつまで燃ゆる 思ひなるらむ

このころまで富士山は活動していたか。

世の常の 草の枕の 旅にのみ やつれたりとや 人は見るらむ

すきまあれば ふたり伏す間も 寒き夜を いかに寝よとや 隔て初めけむ

ふたつなき 命をかくる いつはりも なき世ならねば うたがはれつつ

疑ひの 心のひまぞ なかりける 我が身ひとつの 数ならぬより

我が背子が 棹取る池の 島巡り 濡らすしづくも うれしかりけり

しづのをが うつや荒田の あらためて 作るにはあらず かへす道なり

うつせみの 世にこがくれて 住む宿の 心に夢は ならはざりけり

山よりも 深き心の ありがほに 市の中にも 隠れけるかな

憂き世をば すみ離れても 山の井の みづから濁る 心をぞ知る

思ひ出づる ことも残らず 夢なれば さめしともなき 我が寝覚めかな

あまりにも 背きそむきて 世の中の 月と花とに またむかひけり

面壁の達磨を。

やまがつも うまき昼寝の 時ならし 瓜はむ烏 追ふ人もなし

わがよはひ 昔の数に かへらめや この炒り豆に 花は咲くとも

節分の豆まきの歌を。

心には 何を怒るか 知らねども さへずる声の おもしろげなる

おそらくは鳥の鳴き声を。

ゑのころは はやもあるじを 見知りけり 呼べば尾振りの うれしがほなる

「ゑのころ」は犬。

猫の子は 鼠取るまで なりにけり 何に暮らせし 月日なるらむ

猫の子に比べて自分は、という意味。

人うとむ かどには市も なさざりき 世をあきものと いつなりにけむ

わづらはし いざ世の中に 隠れ笠 着つつや経なむ 雨降らずとも

わびて世に ふるやの軒の 縄すだれ くちはつるまで かかるべしやは

若い頃に陋屋に隠れて住んでいて、故郷の友が聞きつけて、帰って来いと言われたときに詠んだという。

杣川に おろす筏の いかにして かばかり道は くだりはてけむ

空に散る 鳥の一羽の 軽き身を おきどころなく 思ひけるかな

樫の実の 一つふたつの 願ひさへ なることかたき 我が世なにせむ

石をのみ 玉と抱きて 歎くかな 玉はたまとも あらはるる世に

朝づく日 出でぬ先にと ひむがしの 市にあきなふ はたのひろもの

風の上に 立つ塵よりや 積もりけむ 空に離れし 不二のたかねは

老いにけり つひに心の 遅駒は 鞭打たれつる かひもなくして