不確定申告

tanaka0903

乱れそめにし

伊勢物語第1段

むかし、をとこ、うひかぶりして、平城の京、春日の里にしるよしして、狩に住にけり。 その里に、いとなまめいたる女はらから住みけり。このをとこ、かいまみてけり。 おもほえずふるさとに、いとはしたなくてありければ、心地まどひにけり。 をとこの着たりける狩衣の裾を切りて、歌を書きてやる。 そのをとこ、しのぶずりの狩衣をなむ着たりける。

かすが野の若紫のすり衣しのぶのみだれ限り知られず

となむおひつきていひやりける。 ついでおもしろきことともや思ひけむ。

みちのくのしのぶもぢずり誰ゆゑにみだれそめにし我ならなくに

といふ歌の心ばへなり。 昔人は、かくいちはやきみやびをなむしける。

このように伊勢物語には「乱れそめにし」と出てくる。 古今和歌集には源融の歌として、「乱れんと思ふ」と出る。 百人一首古今集に載る歌をわざと改変したのではなく、伊勢物語の方を採った、ということになる。

そんでまあ、通常この話は、 在原業平源融の歌を本歌取りして詠んだのだと解釈されるのだが、ほんとだろうか。 素直に女の返歌として解釈してもいいんじゃないのか。 伊勢物語古今集と業平集にはかなり重複があるが、必ずしも同じではない。 古今集伊勢物語の話を、無理につじつま合わせする必要はない。

男が「あなたの姿をみて思い乱れてしまいました」と詠んで女が 「ほんとに私のせいで思い乱れたのでしょうか」ととぼけた調子で返す、 と解釈するのが一番素直な感じがするのだが。