堀辰雄
『風立ちぬ』 を読んで、 なんだこりゃと思ったから 『菜穗子』 『あひびき』 『ルウベンスの僞畫』 などをざっと読んでみたのだが、
特に『あひびき』という題は二葉亭四迷を思わせるが、ごく短編なので、すぐに読むことができるだろうから、 読んでみると良いと思う。ちょうど、『風立ちぬ』の「序曲」くらいの長さで、 彼はまあ、詩のように短い特徴的な文体の短編、もしくはそれに日記のようなものを付加した私小説のごときもの、 を書く人だったことがわかる。 いずれも軽井沢の避暑地で女の子とどうしたこうしたというような話であって、なんともたわいない。 大正の金持ちの文学少年の書くものだ。
「やあ、薔薇が咲いてゐらあ……」と、いくぶん上ずつた聲で云つた。
「あら、あれは薔薇ぢやありませんわ」少女の聲はまだいくらか少年よりも落着いてゐる。「あれは蛇苺よ。あなたは花さへ見れば何でも薔薇だと思ふ人ね……」
「さうかなあ……」
少女の台詞は明らかに美化されているように思われる。
三島由紀夫が堀辰雄を好きだったらしいのも、 三島由紀夫が伊東静雄を好きだったのと一緒に考え合わせると、 こういう西洋趣味、大正趣味なところが好きだったというわけだと考えればだいたいあたっていると思う。
悪くはないが、一生懸命読むようなものかな。 今更こんな文体を参考にしても仕方ないし。 ずいぶん気取ってる。